日々徒然ときどきSS、のち散文
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2002/06/24(月)
SS・ワンピ]ラヴ・ゴースト・デス・パニック 《後編》(パラレル/サンル)



 遠ざかって行くサイレンの音。

 ひそひそと囁き合う野次馬たちの声。

 事故現場の喧騒は、思っていたよりもずっと静かだった。

 当事者なのに関係のない場所で呑気にそれを眺めている自分が可笑しくて。

 思わず笑みが、零れた。



  
ラヴ・ゴースト・デス・パニック
    
(LOVE・GHOST・DEATH・PANIC)



「…んで? 結局俺、これからどーなんだ?」
 長い沈黙を破ったのは、ルフィだった。
 取り乱して、怒り、驚き、嘆き、それから落ち込んで。
 けれど顔を上げたルフィの顔には、それらのどの表情も貼り付いていなかった。
 そこにあったのは。
 現実を認め、受け止めた、そんな表情だった。
 ルフィはそれを、なんでもないことのようにさらりとやってのけたが。
 現実を現実のものとしてそこに在ると認めること。だが、ただそれだけのことがどれだけ難しいことかサンジは知っていた。
 日々魂と関わり合っているサンジは、ルフィという人間(今は魂だが)がそのどこか頼りなげな外見とは裏腹な強靭な精神力を持っているということを実感していた。
 人は日々否定し、拒絶する。目を背ける。
 それが最も顕著に現れるのは、やはり「死」という現象に対してだ。
 特に今回のような突発的事故なら、尚更。
 けれどルフィは。
 否定も逃避も、しなかった。
 事実をそこに在るべきものとして認め、受け容れた。

「……変わってんな、お前」
「よく言われるぞ」
「自殺志願者って雰囲気でもねーしな……」
「当たり前だろ、バカ」
「バ…死神稼業も結構長いことやってっけど、面と向かってバカっつーか、普通……」
 怒りを通り越して呆れているらしく、サンジは言いながら肩を竦める。
「やりたいことだってまだまだあったし、俺が死んだら泣くヤツもいるだろーな。でもさ、もうなっちまったもんは仕方ねーじゃん」
 けろっとした顔でそう言い放つルフィからは、虚勢を張っている雰囲気など微塵も感じられない。心底本心からそう思い、そう言葉にしているのだ。
 言葉を返さずサンジが溜め息を吐くと、ルフィは何が楽しいのか笑って。
 その目線がふと、さきほどのサイレンを追うように遠くへ流された。
 けれどその目に、絶望や悲観といった感情は欠片も見えない。
「どーしてこうなったかって悩んで立ち止まるのは好きじゃねーんだ。そんなことしてる暇があるなら、今の状況下でどんな楽しいことがあるかって探すからな、俺」
 言いながらルフィはサンジに視線を戻す。
 物怖じしない視線は、まっすぐにサンジのそれと絡まった。

 揺らぐことのない、まっすぐな瞳。
 どこにも根拠なんてないのに、自信に満ち溢れた言葉。
 ……興味が、湧いた。
 どんな生き方をして、どんな生活をして、どんな考え方をするのだろう。
 柄にもなく、そんなことを考えた。
 サンジの視線に気付かないルフィは、きょろきょろと辺りを見回している。
 何か面白そうなことないかなー、などと呑気極まりないことを考えながら。
 それがしっかり顔に出てしまっているものだから、サンジは眉間に皺を寄せながら溜め息を吐いた。
 今日何度目か知れない溜め息。こんなに立て続けに溜め息を吐いたのは初めてだった。
「今頃手術室とか入ってんのかなー、俺のカラダ」
 言いながらルフィは病院のある方角に目を向けている。
 何だか苛々するような、胸の奥がムカツクような。
 サンジは腕を組んだままルフィの横顔を凝視し続けた。

「何、見てんだ?」
 やがてサンジの痛いほどの視線に気付いたルフィが、首を傾げながらそう訊いた。
 ……鈍い。
 内心で呟きながら、サンジはルフィの眼前に指を突き付けた。
 突然のサンジの行動に驚いたルフィはわずかに後じさり、けれどサンジの真剣な眼差しに気付いたのだろうな何を言うでもなく黙ったままサンジに視線を向けてくる。
「とりあえず、俺は俺のやりたいようにさせてもらうことにしたからな」
「それと、この行動の関連性が分かんねーよ、サンジ」
「ま、悪いようにはしねーさ。……多分、な」
 そう言うサンジの口元が、どこか楽しそうに歪んでいた。
 一瞬、嫌な予感が胸の内をよぎる。
 サンジのその表情に、ルフィは見覚えがあったから。
 三つ年上の兄が自分をからかう時、よく見せるような。
「サンジ、ちょい待……っ??!!」
「バァカ、もう遅ーよ」
 
 ぐらりと視界が反転し、ルフィは思わず身を竦ませた。
 自分は経験したことはないが、貧血ってのはこんな風なのかな、とか脈絡のないことを思わず考えてみたりして。
「GOOD LUCK♪」
 聞こえてきたサンジの声は、嬉しそうに語尾が上がったものだった。
 視界の端で確認したサンジは、言葉同様楽しげな笑みをその顔に貼りつけていて。

 それを見たのを最後に、

 ルフィの視界も思考も、

 ぐらりと反転して、

 消えた。


「………………」
 朝の日の光が、眩しい。
 目を開けたそこには、見慣れた天井。
 暫しぼけっとそれを見ていたルフィだが、思考がハッキリするや否や、ガバッと慌ててベッドに体を起こした。
 そのままバタバタと玄関まで走り、新聞を引っ掴む。
「あ…れ?」
 日付は、ルフィが事故にあった日…つまり寝坊して慌てて学校へ走った日と、同じだった。
「ゆ、夢だったのかよぉ……」
 安堵と馬鹿馬鹿しさに、ルフィは思わずその場にへたり込んだ。
 手のひらにじっとりと汗をかいている。
「しっかし、妙にリアリティのある夢だったな〜。とりあえず事故には気をつけねーとな、うん」
 一人頷き、ルフィはくしゃくしゃと頭をかいた。

 それから立ち上がり、リビングのテレビのスイッチを入れる。
 そこにはやはり、いつもと変わらない日常。
 夢で見た非日常など、欠片も転がってはいなかった。
 テレビの中では、ニュースキャスターがどこぞこの芸能人が婚約発表しただのなんだのと今日も平和なことを告げている。
 ルフィはそれを聞くともなしに聞きながら、時間を確認した。
 この時間なら、夢の中で遅刻しそうだと慌てていた講義にも充分間に合う。
「……顔洗ってくるかな」
 気が抜けてしまったのは仕方ないことかもしれない。
 ルフィは握り締めたままだった新聞を床に放ると、欠伸を一つして。
 フローリングの床が、裸足の足に心地いい。
 ぺたぺたと足音を響かせながら、ルフィはいつもの「日常」に見を投じるべく歩き出した。

 そーいや夢の中の死神…サンジだっけ? 天使みたいな金髪碧眼の、でも口も態度も悪い死神。
 アイツ、妙に存在感あったよなー。話してて、面白かったし。
 あれが正夢だとしたら、俺が死んだ時にでも会えっかな。
 朝からなかなかに物騒なことを考えながら、ルフィは自分の考えに一人笑う。


 数時間後、バイト先の飲食店でその金髪碧眼との再会が待っているのだが…今のルフィには与り知らぬ話。
 それによって色々と非日常的なことに巻き込まれて行くのもまた、別の話である。



◆言い訳◆
 っあー! 長くなっちゃった長くなっちゃったー!!
しかも書きたいシーンだけ書いてるもんだからかなり尻切れっぽくていやーんな感じっすよー(汗)
前編と中編にもちっと文字詰め込んでおけば良かったなー。
だって本当はこれ、ラストちゃんとサンジ君に再会する所まで書きたかったんだもん。
でも無理っした。そこまで書いたらあと少なく見積もっても1000文字必要になっちゃうしなー……(遠い目)
設定的にはありがちっぽいですが、自分的にはかなり楽しかったですv
ちうかもうどう見積もっても日記じゃねえやなー…ウォ〜ホ〜…(笑/本誌読んでないと分からんネタやっちまったーい)