日々徒然ときどきSS、のち散文
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2002/06/13(木)
SS・ワンピ]切ないまでのその願いは。(エースとルフィ)



切ないまでのその願いは。


「会いたいなぁ……」



 赤髪の海賊が港を去ってから。
 ルフィは今まで以上に水平線へ思いを馳せるようになっていた。
 それまではある意味漠然とした憧れだった"海賊"への思いが、少年の心の内で既に叶えられるべき未来として定められているように。


「まーた海見てんのかよ」
「なんだ、エースか」
「なんだはねーだろ、兄貴に向かって」
 苦笑するエースに、けれどルフィはその言葉に反応を返さず。
「手伝い終わったのか?」
「まーな。この俺にかかりゃあんな仕事楽勝に決まってんだろ」
「ふーん」
「……聞いてねぇな、兄貴様の話を」
 人の話を聞かないのは元からだが、シャンクスたちが去ってからのルフィはそれが更に輪をかけて酷くなった。
 けれど腑抜けてしまったかと言えば、決してそうではなく。
 海を見据えるその目に強い光が宿っていることに、エースは気付いていた。
 ともすればその光は、彼らが来る以前よりも強くなったような。

「で? 誰に会いたいんだ?」
 ルフィの髪をくしゃりと撫でてやりながら、エースは問う。
「誰かまでは分かんねえ」
「……何だそりゃ」
 呆れたようなエースの言葉に、ルフィはようやく視線をエースに向けてきた。
「しししっ、この海のどこかにいる、俺の仲間だっ」
 笑顔で言い切ったルフィに、エースは片眉を上げて。
 何か言いかけるように口を開きかけたエースだが、結局何も言わないままふっと息を吐くに留めた。

「そーいやお前、いっつも被ってる帽子はどうしたよ?」
 ふと気付けば、いつしかルフィのトレードマークのようになってしまっている麦わら帽子が、頭の上にない。
 シャンクスが去ったその後から、片時もその身から離そうとしなかった帽子が。
「うん、汚すと嫌だから家に置いてきた」
「汚すって…何してたんだよ?」
「海に出るために鍛えてたんだ! 俺は誰より強くなんなきゃいけねーんだから」
 言い切るルフィの表情に迷いはない。
 無意識にだろうか握り締められた拳に、その強い意思が汲み取れる。

「けっ、俺にも勝てねーくせしてなーに言ってんだか」
「むううう、勝つ! ぜってー勝つ!」
「ム・リ・だ・ね」
「無理じゃねー!!」
 明らかにからかう口調のエースに、けれどルフィは頬を膨らませて抗議してくる。
 ムキになって殴りかかってくるルフィの拳をひょい、とかわしながら、エースは楽しげに笑った。
「ま・お前がそんだけ願ってんなら、会えるかもな。お前の仲間とやらにさ」
「会う! ぜってー会う! んでもって俺が海賊王になってやる!」

「俺に勝てもしねーくせにか?」
 ルフィの攻撃を避けながら、エースは更にルフィを煽るようなことを口にしてみせる。
 案の定、ルフィは怒りながら突っかかってきた。
「勝負しろお! 逃げんな!」
「やーだね。お前シツコイから」
 ルフィの拳やら足やらを避けつつ、エースはひらひらと手を振る。その態度がますますルフィを増長させることなど分かっていながら。
「ちっくしょー…待て!」
「ゴメンだっつっただろー」
 追いかけてくる足音を聞きながら、エースは俺も大概ガキだな、と苦笑する。

 ま、今はお前の兄ちゃんだからさ。
 お前で遊ぶのも、お前をからかうのも、お前を心配するのも、俺の特権だろ?
 いずれは、離れていくんだ。そう遠くない未来には。
 お前がそうまでして願うことなら、叶わないはずがないんだ。
 その願いが叶ったら、アニキとしての特権もなくなっちまうんだからさ。
 今ぐらいはいいよな?
 ……って、お前に聞いた所でダメだっつーんだろうから、この質問は俺の胸の内にだけ閉まっておくけどな。




◆言い訳◆
 島を出る前のエースとルフィ。
 ジャンプ本誌にエース様再登場記念ってことで(笑)
 しかしこの方たちは家族構成だのが分からないもんだから過去話を書く時は常に博打覚悟ですな。
 今回は無難なトコでエースとルフィのみしか出してないですが(過去が明らかになっても恐らく差し支えないであろう安全思考な書き方をしてみましたv←度胸ないだけです)。父母とかどーなっとんねんD兄弟!!
 しかしうちが書くとどーにもエースが偽者くさいっすな……
 ただの兄バカになってまうんですよ(笑/笑ってる場合じゃ)。あ、実際も結構そうかもしれない? あはははは〜(笑って誤魔化せ)