日々徒然ときどきSS、のち散文
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2002/06/12(水)
SS・ワンピ]Top of the world(サンル)



「サーンージ〜」


 頭の遥か上から聞こえてきた声に、頭上を振り仰ぐ。





Top of the world





 振り仰いだそこには、今日の見張り役が満面の笑みでこちらに向かってぶんぶんと手を振っていた。
「あんのクソゴム……」
 それを目にしたサンジは、彼曰くクソゴムことルフィとは対称的に渋面を作り吐き捨てるようにそう呟いた。
 ルフィに聞こえようはずもない呟きは、けれど聞こえたとしても何ら影響を与えることなどなかったであろうことは確認せずとも明白だが。


「もう寝るのかー?」
 ルフィの問いにサンジは無言で首を横に振る。
 それから人差し指をぴっと立てると、まだ何か言いたげなルフィを制するように自分の唇の前に持ってくる。
 それを見て、尚も何か言い募ろうとしていたルフィも現在の状況を察したのかぴたりと黙り込んだ。
 真夜中に差しかかろうという時間帯に大声で騒ぐのは、あまり褒められたことではないから。寝ている人間がいるとなれば、それは尚更だ。
「……オイ、そこ動くなよ」
 夜であることを考慮して、自分より遥かに高い場所にいるルフィに少々トーンを抑えた声でそう告げる。
 ルフィがこくりと頷くのを確認してから、サンジはマストに足をかける。
 夜の冷たい風が遠慮なく吹きつけてくるのに、わずかに肩を竦めて。
 けれどその一瞬の後は躊躇うことなくするすると登って行くと、程なく見張り台へと辿り着いた。
 見張り台に到着したサンジは、相変わらず不機嫌そうに眉を寄せたままだ。
 その視線は見張り台よりも更に上へと注がれている。


「…ったく、何考えてんだオメーは」
「へへ、高くて気持ちいーんだ、ココ」
 そう言って笑うルフィがいるのは、見張り台よりも更に上のマストのてっぺんだった。
 サンジのしかめ面の意味になど気付いていない(あるいは知らないフリをしているだけなのか)ルフィは、足をぶらぶら揺らしながら笑っている。
 ゆらゆら揺れるその足が、なんだか風に煽られているように見えてサンジはますます眉間の皺を深くした。
「いーから、降りてこいよ」
「おうっ」
 サンジのその言葉にルフィは躊躇いも見せずに座っていた場所から飛び降りた。
 こう来るだろうな、と予測していたのでサンジに驚きはない。
「と〜うちゃくっ」
 ぽす、と音を立ててサンジの腕に抱えられたルフィは、嬉しそうに言う。
 人一倍食べるくせに、相変わらず細い。
 簡単に腕が回せるその背を、サンジはあやすように片手でぽんぽんと叩いた。


「あんなトコで何してたんだよ?」
「見張りだっ」
「アホ。あんなトコで見張りする奴があるかよ」
「だって高い方がよく見えるじゃんか」
「……ああ、バカとケムリはってヤツか」
「何だそれ?」
「気にすんな」
 ……ちなみに。ここまでの会話は、先ほどの体勢のまま交わされている。
 ルフィはしっかりサンジにしがみつき、サンジもルフィを受けとめ抱き締めたままで。
 サンジの方が若干ルフィより背が高いため、ルフィは爪先立ちになっているが。(爪先立ちどころか足先が浮いているように見えないこともない)
 誰も見ていないからいいようなものの、誰かが見たなら"バカップル"の称号を頂くこと間違いなしだろう。
 しかしながら今は夜中。オマケに場所は見張り台。
 誰に見られることもない状況下な上、普段からあまり周りを気にすることなどない二人なものだから。おそらく、今の自分たちの体勢が端から見れば胸焼けの一つも起こさせるものだということになど微塵も気付いていないのだろう。


「誰もいない時に危ないことすんなって言われてんだろうがよ」
「危ないこと? 何がだ?」
 ……自覚もなしかよ。
 内心で呟き、サンジはふっと溜め息を吐く。頭を抱えたい気分だった。
「マストの頂上にいただろが」
「あれが危ないか? なんでだ?」
「落ちたらどーすんだ。カナヅチのくせして」
「落ちねーもん」
「……お前は毎度毎度どこからその自信が湧いてくるんだ? 根拠もねーくせして」
 言いながらサンジはルフィの後頭部をぺしっと叩いた。
 小気味いいその音に、痛くはないがルフィは眉を顰める。
「高くて気持ちよかったんだぞ。世界のてっぺんにいるみたいでさ」
「それは分かったから、誰もいない時にはすんな。心臓に悪い」
「別に、もういいんだ」
 ルフィの返事に驚いたのはサンジで。
 何に驚いたかというと、そのあまりに物分かりのよすぎる返事に対してだ。
 サンジが思わず言葉を失っていると、ルフィが楽しげに笑う声がして。


「だってさ、ここにいても世界のてっぺんにいるみたいな気になれるしなっ」


 ……完敗デス。
 ただでさえクソ惚れてるってのに、コレ以上陥落させてどーしたいんだよ。
 柄にもなく赤くなった頬を自覚しながら、サンジはルフィの首筋に口付ける。
「わひゃっ。なんだよサンジ、いきなり何すんだっ」
「色気ねーセリフだな、オイ」
「うわわわっ、くすぐってーって、いきなりどーしたんだよっ、ひゃ、あはははっ」
 ルフィの笑いながらの抗議にも耳を貸さずに、サンジは犬か猫のようにルフィの首筋をぺろぺろと舐め上げた。
 ルフィはそれにけたけたと笑い声を上げる。
 どうやら存外、ルフィの言葉が嬉しかったらしい。
「俺も」
「ん?」
「俺も、こーしてっと世界の頂上にいるみたいな気に、なるな」
「しししっ、じゃあ、お揃いだなっ」
「ああ、そうだな」


 言葉を交わして、笑い合って。
 二人は、触れるだけのキスを交わして。
 また目を合わせると、楽しげに笑い合った。
 その笑顔は、まるきり幸せな恋人達のそれで。
 互いの表情にそれを見た二人は、またキスをした。




◆言い訳◆
 砂吐く準備はオッケーでしたでしょうか? 洗面器の間に合わなかった方は、ゴメンナサイι
 …と思わずのっけから謝るしかないような代物を書いてみちゃいました。
 お、おかしい…書き始めはもっとシリアスだったはずなのに…う、うわあああ手が勝手に!!!(by鉄雄…じゃねえやK9999/KOF)って感じですな、ハイ。(いっぺん死んで来ぉい! by山崎竜二)

 って後書きまで暴走してどうするよ、自分。
 なんだか久し振りに砂吐きモード全開バリバリな話書いたせいか、思考回路ヒートアップしちゃったみたいっす。
 まあこれまでに自分が書いた物で甘いのがなかったかと言えば小さくなるしかないんですが…でも流石にここまでのは書いていなかったと自負しているんで久々にここまでのものを書いて自分でもダメージ来ちゃったみたいで。(ノンブレスでどうぞv)
 過去の産物(主にKOFかな…/遠い目)なんかはこの比じゃなかったりします。甘さも、キャラの偽者度も。
 ワンピにハマッてからはなるたけキャラのイメージ崩さないように変えないように意識するようになったんでマシになったんですが(これでもね!)。しかしそうしたら書くペース落ちたっつー…わお、笑えねえや!

 そーいや今回で日記強化月刊に入ってから十作目のSSですな。(前後編分けて考えてですが)
 それなのに一番駄作っぽくてぷちブルー……(泪)
 今回はまたもタイトル思いつかなくて困ったちゃんでした(それはお前だ)。
 分かる人には分かるかな? なカーペンターズから、恐れ多くも拝借しました。
 でも書く時にかかってたBGMはスピッツ。だから多分今回の二人は金沢"スピッツ風味"春菜な感じの二人なのではないかと(爆)
 イメージソング的には『運命の人』ですかね。可愛い曲なのでお気に入りっすv
 ……しかし、最後に一言をば。
 
お前ら、見張りの意味ないじゃねーか!