日々徒然ときどきSS、のち散文
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2002/06/10(月)
SS・ワンピ]あなたの手のひら(サンル)



「いーよなぁ……」


「……人の事まじまじ見ながら溜め息吐くの、いい加減やめろ」
 


  
あなたの手のひら



「ったく、なんなんだよお前?」
 呆れたような怒ったような困ったような表情で頭をかきながら、サンジは椅子に反対向きに座っているルフィにそう切り出した。
 ルフィの様子がこうなったのは、今朝からだ。
 珍しく起こされることもなくキッチンを訪れたルフィは、最初こそ食べ物を掠め取ろうと必死だったがガードの固いサンジに諦め(つまみ食い防止にサンジが与えたリンゴが功を奏したと言えよう)。
 静かになったな、と思ったらルフィはリンゴをしゃくしゃく齧りながら料理をするサンジをぼけっと眺めていた。
 ……そう。そこからだ。
 明らかにルフィの様子がおかしくなったのは。


 流石に食欲大魔人のルフィが食事を残すなんてことはなかったが(それどころかおかわりをしっかりした挙句にまだ足りないとまで言ったほどだ)。
 食事中、食後、食後の後昼までのあき時間などなど。
 ルフィは飽きもせずキッチンに居座り続け、サンジを目で追い続けた。
 幾らサンジは料理人だからと言っても、四六時中キッチンにいるわけではない。
 だというのに、今日は何故か居座り続けるルフィの雰囲気に押され、結局一日のほとんどをキッチンで過ごすハメになってしまった。
 ……まぁ実際問題ルフィは何かしたわけでも言ったわけでもなく、ただサンジのことを凝視しては時折溜め息を吐いてみたりしていただけだったのだが。
 ちなみにナミ辺りに言わせれば危なっかしい船首に座られるよりもこっちの方がよっぽどいいわ、とでも言ってのけるだろう。差し当たって出る被害は料理人の神経性胃炎ぐらいなものだろうし、それすらこの船の凄腕の医者にかかればすぐに完治してしまうのだろうから。


 それはともかくとして。
 そんなこんなで、とうとう堪り兼ねたサンジがルフィに一言切り出したのは、太陽が西に傾き夕食の支度をそろそろ始めなければならないかな、という頃合だった。(こんな調子だからナミ辺りにも嫌味を言われるのだが本人は至って気にしていないのでよしとしよう。人間気付かなければ幸せなことなんて山ほどあるのだ)
「で?」
「でって…なんだよ、サンジ」
「朝っぱらから夕方までキッチンに居座り続けて、かつその間中ほぼずーっと人の方見ながら時折溜め息まで吐いてくれてたのはどういうワケなんだ、ん?」
「ゆ…夕方かあっ?!」
 ガタン、とけたたましい音を立ててルフィが立ち上がる。
 そのままドアへ駆け寄り、外が茜色に染まっているのを確認するとがくうっとその場に座り込んだ。
「き、気付かなかった……」
 あああ色々やりたいことあったのに〜…と呆然と呟く声も聞こえてくる。
 まぁそのやりたいことの大半はくだらないことだと言うのはこの際置いておくことにしよう。


 なんだか柄にもなく落ち込んでいるらしいルフィを見ているうちに、段々と怒り(正確に言うと怒りだけではないのだが)の収まってきたサンジは、ルフィの側まで歩み寄ると。
「オイ、なんだよ。一体どうしたってんだ?」
 座り込んだルフィの腕を掴み立たせてやりながら、サンジはいつもより幾分か優しい口調でルフィに問う。
「……笑わねーか?」
 問われたルフィは、珍しく答えるのを逡巡しているらしく。
 無意識だろうが上目遣いでサンジをじっと見つめてきた。
 神妙にしてりゃ〜かわいげあんのにな……
 聞こえたりしようものなら問答無用でゴムゴムの銃でも繰り出されそうな言葉を内心で呟きつつ、サンジは頷く。
「ああ、笑わねえよ」
 その言葉に安心してか、ルフィはふっと息を吐いた。強張っているようだった肩の力が抜けるのが、傍目にも分かるほどに。


「あのな俺、サンジの手が羨ましくてさ」
「……手?」
「おう。だってサンジの手って指長いし、キレイだし。でもその割りにちゃんと男っぽいしさ。いーなーってな」
 ……軽い。軽過ぎる。
 こんなこと一日中考えながらここに居座り続けたってのか? それも、時間忘れちまうほど。
 なんだか拍子抜けして、サンジは言葉を返すのも忘れてルフィを凝視してしまった。
 それは丁度、ルフィが今日一日サンジを見ていたのと同じように。
 言ったルフィはといえば、口にしたことですっきりしたのかなんだかあっけらかんとして様子だ。
「…へー。お前の理想の手ってのは、こんなんか」
「うんっ」
「ま、お前の手に比べりゃな。てんでお子様だし、お前」
 にやにやとからかうような笑みを浮かべつつそう言ってやると、ルフィは案の定むうっとむくれた。
 ……あーあ。
 一日無駄にした気分なのは俺の方だっつの。
 しかし俺、なんでこう……微妙な気分なんだろな?



◆言い訳◆
 うっわ短くしようしようと焦ってるのがモロバレですな。だって回を重ねるごとに段々長くなってきちゃってどうしようかと思って…ι
しっかし…ちょー駄作でもう自分的にもどうしようかと(笑)
なんとなく遊佐未森の『君のてのひらから』を聞いてたら書きたくなった手ネタ。
しかも何故か初心のごとくまだ真っ白なサンジ&ルフィで。
1日に書いた『意地悪っていうのは。』と似た感じにしてみたんだけど、比べると結構違うもんですな。抱く感情が違うと違うもんなんだね〜。
はっはっはっは。こんな日もあるさ〜。
でも本当に書きたかったのは目隠しなんだけど。
スキだって言った手で目隠しされるルフィを書きたかったんだけども。
それ入れたら明らかに前後編になるの請け合いなのでやめときました。これをNOVELSに移行する日が来たら、加筆修正したいっす。
……そういや歪んだワルツの後編じゃなかったのかココ…ι あ、明日…かなっ?