日々徒然ときどきSS、のち散文
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1981/03/26(木)
散文]エデンの果実は猛毒


悪魔のような男の怒鳴り声と
耳を引き裂くような女のヒステリックな喚き声

そういうものに身を晒して
あたしは育った
それに怨嗟を抱く暇なんてなかった

狂信は身を焼き
無関心は心を砕く

なんにもない
「あの場所」は空っぽ
それでよかった
それしか知らなかった


不安を吐露する術なんて知らないままでいい
一度知ったら戻れない
それはまるで
聖書の中の愚かな二人

アダムとエヴァの食した
禁断の林檎のように

この身を取り巻き
覆い尽くし
一人じゃ立てなくなるほど
打ちのめしてくれるから

そんなの御免だ
だってあたしは生きなきゃならない
この脚で
この腕で
自分を守らなきゃならない


傷つけるには力が足りず
終わらせるには執着が多い
どうしてこの世界は矛盾ばかりなのだろう

埃まみれの
歪んだ綺麗な世界で
それでも手放さない
諦めない
それに本当は理由なんてなくて


救いのない終わりにするつもりだった
一寸先は闇で
声も意識も届かないから

だけどそうしなかったのは
できなかったのは
矛盾まみれのこの心でも
確かに

嬉しかったり
大切だったり
そういうもんが
一片でもあるから

手放さない意味なんて
一欠けらでいい


猛毒を齧って
それに腸を焼かれて
それでも生きるあたしたちは

存外にしぶとく
諦めが悪く
強かだから


笑うしか、ないんじゃないか?


(2004/08/23)