表の顔は、普通の高校生。
けど、その実態は。








Heaven Ghorst Busters













「まずはだな、ここのビルから、ターゲットを観察してだな…。」
「や、それよりも、駅の辺りから尾行した方がよくねー?」
「あー、確かにな。
 でも、二手に分かれた方が、効率はいいだろ?」
 はぁ…。
テーブルを囲んで喧々諤々やっているヤツらを横目で見て、俺はこっそりとため息をついた。
俺の部屋に、もう3時間も前から陣取って、あーでもないと騒いでるバカ2匹に、いい加減愛想をつかして。
 と、俺の飽き飽きって態度に気づいたバカの1匹が、じろっとこっちを睨んできた。
「おい、この駄犬!
 テメーもちったあ作戦会議に参加しやがれ、このヤロウ!」
「とりあえず、俺は興味ねーから。
 テメーら2匹で仲良くやっててください。」
「んだとー!!」

顔を真っ赤にして叫んでる、バカ1匹目は、バカ猿―猿野天国。

そして。
「いーじゃん、こんな役立たずのヘタレ、ほっとこうぜ?
 2人で仲良くしてろっつーんだから、言葉どおりにしてやりゃあいいっしょ?」

いけすかねぇ笑いをニヤリと浮かべる、バカ2匹目は、バカの中のバカ―御柳芭唐。

御柳の言葉に、むーっと猿野が唇を尖らす。
「そんなワケにもいかねーだろーが。
 こんなヘタレでも、『シゴト』の時にゃあ、一応、役に立つんだし。
 それに、3人揃ってこその、『ヘブン・ゴースト・バスターズ』だろ〜。」




そう、俺たちは『ヘブン・ゴースト・バスターズ』。
平たく言えば、幽霊退治のプロ、だったりする。(心から不本意だが。)




 世間一般のヤツらは知らねーだろうが、世の中には全人類と同じくらいの数の霊が漂ってる。
たとえば、未練のある土地から離れられねー地縛霊とか、人を呪って害をなす浮遊霊とか。
そーゆー霊に天国へと強制的にお帰り願うのが、俺たちの仕事。

けど、俺は正直、このシゴトがめんどくさくって仕方ねー。

 普段、俺たちは一介の高校生のわけで、授業も受けりゃあ部活もする。
なおかつ、プラスアルファでこんなシゴトしなきゃなんねーんだから、イヤにもなるだろ、普通。
それなのに、今、目の前でぎゃあぎゃあ騒いでるバカ2匹は、このシゴトが楽しくて仕方ないらしい。
毎日毎日、何処からかシゴトを仕入れてきては、俺の部屋で作戦会議。
ホント、迷惑この上ねえ。


のわりに、いつもこの部屋を会議の場に提供しちまうのは、実はワケありで。



 俺の存在なんてさっぱり無視して、御柳のヤツがいきなり、猿の肩を抱きやがった。
「それよりもさぁ、このシゴトが終わったらよ、俺の部屋に来ねー?
 面白い映画のDVD借りてきたからよ、いいだろ?」
甘ったるい、誘うような、下心ありありの声。
どう見たってろくなこと考えてねーって分かりそうなもんなのに、
鈍感無比で危機意識に欠けてるバカ猿は、嬉しそうに笑って。
「おー、いいぞ!どんな映画だろ、楽しみー!」
なんて、破顔一笑しやがる。

ホント、バカ。バカすぎるぞ、このバカ猿。

「おい…。」
「俺んちのテレビ、液晶ワイド型だからよぉ、迫力あるぜ〜?」
「うっわー、すっげーな、それ!」
「おい…。」
「映画が終わったら、ゲームしようぜ。
 例のあれ、買っといたからよぉ。」
「ホントか!やったー!!早くプレーしてー!!!」



「とりあえず、シゴトの話だろーが!!」



完璧に俺を無視して話を進めるバカどもの間に、無理やり俺は割って入った。
途端に、猿が嬉しそうな顔をして笑う。
それはもう、なんつーのか、「花が綻ぶような笑み」ってのはこーゆーのだろうなっていう笑顔で。
図らずとも、俺の胸はドキン、と高鳴った。
「おっ、犬っ、シゴトする気になってくれたかっ。
 へへ〜、結局はなんだかんだ言ってもやる気になってくれるからさ、
 俺、テメーのそーゆーとこ、好きなんだよなぁ。」
好き、って…、ちょっと、やべえ。
体温が一気に上昇したのが、手に取るように分かる。
好き、って。
猿が、俺のこと、好きって。

なんて、ちょっぴり幸せな気持ちは。
「お〜、駄犬もやっとその気になったかよ。
 どーせ、役にはたたねーけどな、賑やかしにはいいっしょ。」
御柳のクソムカつく科白によって、簡単に吹き飛ばされた。

それもなおかつ。
「ハハハッ、それも一理ある〜!」
なんて、猿のヤツまで同調しやがるんだから、報われねー…。


 確かに、俺はゴースト・バスターん中では一番ランクが下で。
出来ることって言やぁ、霊の姿を見ることくらい。
それに比べて、猿と御柳は、ちゃんと除霊まで出来る。
その方法が、それぞれ個性的っつーか。
御柳のヤツは、文字通り霊を除く、つまり、追っ払って消しちまう。
それに対して、猿のヤツは、霊を浄化して、ちゃんと天国に送ってやる。
『天国』って名前は、伊達じゃねーらしい。

つか、まあ…、名前とか天性の才能とか、そーゆーのよりも大事なのは。


「………。」
「ごめんごめん、犬〜っ、そんなにむくれるなってば!」
 俺の不機嫌に気づいたらしい猿が、ケタケタ笑いながら、俺の背中をバンバン叩いた。
御柳のバカは、「事実だからしょうがねーっしょ。コイツ、役立たずだし」とニヤリと笑って、
さっきからずっと噛みっぱなしだったガムを膨らませた。
そのガムを指でつついて割っちまって、「さすがにそれは言いすぎ!」って窘める猿を見て、
俺は溜飲を下げるだけじゃなくって、ちょっと勝ち誇った気持ちになった。
反対に、御柳のヤツは顔にくっついちまったガムをはがしながら、ちょっとふてくされる。
とりあえず、いい気味だ。




 さっきまで全く話を聞いてなかった俺のために、改めてシゴト内容を説明してから、
猿はふっと表情を和らげて、まるで独り言みてーに呟いた。
「…可哀想だよな、行くべきとこに行けなくて、さまよい続けるのってさ。
 だからさぁ、犬…、芭唐…、俺たちの手で、ちゃんと送り届けてあげような。」



コイツが、霊の浄化なんて、上等なことができるのは。
名前とか、天性の才能とか、そーゆーことだけじゃなくって。



こーゆー優しさがあるから、できるんだって、俺は思う。





















で、俺は、こんな猿の優しさに、惚れてたりする、密かに。





















 霊を見ることしかできねー俺だけど、
ホントはこーゆーシゴトには、あんまり興味がねーんだけど、
それでも、ここにい続けるのは、この猿のことが、好きでたまらねーから。
俺がこのシゴトをしてることで、コイツが喜んでくれるから。

……あと、もう一つ、理由はあるんだが。

「さすが、俺の天国っ、いいこと言うじゃねーかっ。
 とにかくよぉ、こんな役立たずの駄犬放っといて、ちゃっちゃとシゴトしちまおうぜ。
 んで、終わったら俺んち…。」
「とりあえず、シゴトが終わったら、俺もテメーんちで、その映画を観る。」
「はあ!?テメーっ、ふざけたことぬかしてんじゃねーよっ、駄犬のクセに!
 俺と天国の甘い時間の邪魔すんじゃねー!」
御柳の怒鳴り声に、ぴくっと猿のこめかみがひくついた。
「バッ…、誰が甘い時間をすごすなんて言ったんだよ!
 またテメーってば、アホなこと考えてやがったな…。
 あれだけ、『今度そーゆーアホなこと言ったら、ブッコロ』っつったのに!!
 …おい、犬っ、今日は予定変更!
 シゴトが終わったら、テメーんちでオリンピック観戦っ。
 映画よりも、筋書きのないドラマの方がいいですよーだ!」



そう、俺がこのシゴトをする、もう一つの理由。
それは、優しいがゆえに、霊だのおかしな虫だのを惹きつけまくる猿を、そいつらから守るため。



「とりあえず、それは大歓迎だ、猿。
 早くシゴトを終えちまって、一緒に野球でも見るぞ、とりあえず。」
「オー!」
「って、待てよ天国!
 コイツだって、所詮、ケダモノだっつーの!!
 甘い顔してっと、パックリ食われちまうぞっ。
 だから、俺も一緒にオリンピック観戦するからよぉ。」
「とりあえず、テメーはお断りだっ。」
我ながら不毛な言い合いに、猿はやれやれと肩を竦めて。
「ったく、なんだよっ、テメーらってばホント、仲いいのな!
 俺、いっつもさあ、最後にはテメーらの会話からはじき出されちまうじゃん。」

「「なんで、コイツなんかと!」」

反論さえもぴったり息が合っちまった俺たちを見ながら、プッと吹き出す。
「分かった分かった、じゃあ、3人でオリンピック観戦な!
 とりあえず、ちゃっちゃと作戦立てて、シゴトを終わらせちまおうぜ。」
ニッ、と楽しそうに笑ってみせる猿に、俺も御柳も、不本意ながら一緒に、頷いていた。





















正直、幽霊退治も、あのバカ御柳と一緒にいるのも、思い切り不本意だが。
でも、こうやって、猿とすごす日常は、すっげー幸せなわけで。

結局、今のところ、この生活が気に入ってたりする、とりあえず。















 

大崎様より頂きました、なんと金沢への誕生日祝いSSです!!!!!

へっへっへっ、どうだ羨ましかろう、という意図を持ってUP…
などしておりませんよ、勿論(いかんいかん本音が)
掲載許可を頂いて参りましたので、
皆様にも幸せのお裾分けをするべくページを作らせて頂きましたv

もう誕生日など来なくてもよいお年頃なのですが、
こんな嬉しい事があるとやはり誕生日は特別なのだなぁ、と
現金にも思ってしまうわけです。
プロフに誕生日書いておいてよかったー♪(笑)

大崎様、本当に本当にありがとうございました!!!


UPDATE/2004.8.25

 

 

 

 

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