テメーはいつだって、マシンガントーク。
マグロは泳いでねーと死んじまうって話だけど、
テメーは喋ってねーと死んじまうんじゃねーのか?
それくらい、喋って、喋って、喋って、喋って。

そんなテメーはさしずめ、「マシンガントーカー」?
(そんな英語、あったかな。)








マシンガントーカー








「それでだな、そこで数学のあのヤカン頭がだな…!」

 部活からの帰り道。
夏至も近いってのに、もうすっかり辺りが暗くなっちまってるような時間。
ご近所様の迷惑顧みず、俺の隣でバカ猿は、さっきからずっと、喋り通し。
あーでもねえ、こーでもねえと、身振り手振りを交えて大騒ぎ。

やれ、1限の数学の時間にヤカン頭に怒られただとか、
やれ、2限の化学の教室移動のときに、たまたま兎丸と司馬に会ったとか、
やれ、3限の体育で、高飛びやって顔面着地したとか、
やれ、4限サボって購買に行ったら、珍しくコロッケパンが買えただとか。
とにかく、今日一日に起きた出来事を、
そりゃあ下らねーほど些細なことまで、一個一個漏らすことなく、ギャーギャー喚いて俺にご報告。

コイツ、ぜってーに口から生まれてきたな。
そうじゃなきゃ、こんなに喋り続けれるはずがねーし。

だって、あんなに喉がカラカラになるまで練習して、
で、今はその帰り道だってのに、この猿は黙るってことを知らねーんだから。
普通、疲れてるし、喉は渇いてるし、喋りたくなんてねーはずだろ?
けど、この猿は、一秒だって黙っちゃいねえ。
とにかく、喋る、喋る、喋る、喋る。





とりあえず、そんな猿に俺が心密かにつけたあだ名は、『マシンガントーカー』。
人間じゃねー猿に、『トーカー』ってのもおかしなもんだがな。





「んでだなぁ、俺はカチンと来たね。
 だから、わざと一番難しい数学の問題を…。」

 その話、何度目だよ、とりあえず。
同じ話繰り返すくらいだったら、黙ってりゃいーじゃねえか。
なんて、そんなことがちょっと、頭をよぎってみつつ。


でも、同時に。


「因数分解の応用問題あるだろ?
 解くのにノート1ページくらいかかるやつ。
 あれを、俺はだな…。」

唾を飛ばさんばかりの勢いで、派手にジェスチャー加えながら、
俺の方を見て熱く語ってみたり、何か思い出すために空を見上げてみたり。
そのたびに、汗で濡れちまってる茶色の髪が、ちょっと重そうに揺れたり。
息も継がずに喋り続けてる所為で、プラス部活終わったばっかで体が火照ってる所為もあって、
まるで熟れたリンゴみてーに真っ赤に染まってる頬とか。
隣に並んで黙って歩きながら、俺はそんなテメーにこっそり見惚れてたり。


こんなに一生懸命になって喋ってる猿が、なんつーか、愛しくてたまんねー。


こんなこと、俺が思うこと自体、ありえねーって感じだが。
なおかつ、その対象が、このバカ猿だってのが信じられねー。
第一、コイツ、うるさくてたまんねーじゃねえか。
ちょっとだって黙ることなく、べらべらべらべら喋り続けて。
部活で疲れててゆっくりしてーのに、こんなバカ話、延々と聞かされて。



けど。





不思議なことに、バカ話してるコイツの声は、すっげー耳に心地いい。





兎丸ほどじゃねーにしても、男にしちゃあちょっと高めで。
かと言って、女の声みてーに金属質じゃねーし。
強弱つけて話すから、なんとなく、波の音なんか思い出してみたり。
って、そんなにいいもんじゃねーけど。
でも、なんとなく、いつも楽しそうに弾んでる声は、すげー耳当たりがよくて。
少なくとも、俺にとっては、気持ちいい。







だから俺は、流しっぱなしのシャワーみてーに、ずっとずっと、浴びててーんだ、コイツの言葉を。







「おい、こら、クソ犬…。」
 と、いきなり、猿の口調が変わった。
いつもの高めの声とは違う、不機嫌そうな低くて押し殺した声。
ちらりと少し視線を下ろしてやると、そこには何が気に入らねーのか、頬を膨らませた猿の顔。
まるでガキみてーな表情で、俺を見上げて唇を尖らす。
「テメーさぁ、さっきから、俺の話ちゃんと聞いてるのかよ!」

とりあえず、意外だ。
コイツ、俺に話を聞いてもらいたかったのか?
ずっと、ただ自分の気分の赴くままに、喋り続けてるんだと思ってたんだが。

「なんだ、聞いてて欲しかったのか。」
「たりめーだろ!俺はテメーと違って延々と独り言喋る趣味なんぞないわ!!」
随分な言い様だな、おい。
俺だって、延々と独り言喋ってる趣味なんてねーし。
つか、第一、テメーと違って、俺はどっちかってーと喋ること自体が面倒臭くてたまんねー。

「ったく、これだからコミュニケーションもとれない駄犬は…。
 テメーは癒し系ペットにはなれねーな、ホントによぉ。
 最近のワンちゃんは、ご主人様の話をちゃんと理解するって言うぜ?
 …あーあ、せっかく偉大な猿野天国様が素晴らしいお話をしてやってるってのに、
 テメーってば全く上の空なんだからよぉ、腹立たしいったらねーぜ。」
なんて早口にまくし立ててから、猿はむーと唸って、足元に視線を落とす。


なんか、その表情は、すっげー寂しそうで。


「んだよ、バカ犬め。
 いつもいつもさ、俺ばっか喋り続けて、バカみてーじゃん。
 テメーは全然、俺の話なんて聞く気がねーし。」

どっかちょっと悲しそうに、ぽつりと呟いて。


おい、猿、今テメー、なんて言った?
俺が、テメーの話を聞く気がねーって?


なに勘違いしてんだよ、バカ猿め。
あー…、でも、確かにまあ…、そんなふうに思われても仕方ねーかもな。





だって俺は、この猿の声が、言葉が心地よすぎて、返事することだって忘れてるんだからな。





「おい、猿。それはテメーの勘違いだ。」
 俯き加減になっちまってる猿に、俺はちょっとだけ慌てて声をかける。
と、猿は鋭い眼差しで、キッと俺を睨みつけてきた。
「何処が勘違いだってんだよ!
 だって、テメーなんかさ、相槌一つ打ってくれねーじゃん!」
「相槌は打たねーけど、でも、ちゃんと聞いてる。
 一言一句漏らさずに、ちゃんと聞いてる。」

そう、一言一句漏らさず。
心地いいテメーの声を聞き漏らしたら、もったいねーだろ?

けど、猿はまだ俺の言葉を全く信じられねーらしく、
明らかに「疑ってます」っていう表情を浮かべて、俺を睨めつける。
で、腕を組んで、一言。


「じゃあさ、そんなこと言うなら、俺がさっきから喋ってたこと、全部言ってみろよ!」


……なるほど、そうきたか。
まあ確かに、言葉だけで信じろって言う方に無理があるのは確かだが。
 じーっと俺を上目遣いで、責めるみてーに見上げる猿。
そんな表情さえ、可愛いって思っちまう俺は、やっぱり末期的な猿マニアだな。



とりあえず、仕方ねえな………。



相変わらず、拗ねちまったみてーな顔してる猿をまっすぐに見つめて、
ちょっとだけ、息を吸い込んで。


で、俺は。




「1限の数学の時間に珍しく宿題やってきたってのにヤカン頭にどうせやってきてないだろうって怒られて
 カチンときたからわざと難しい因数分解の応用問題をヤカン頭が解けるヤツって聞いたときに手を挙げて
 答えたけど実はそれはB組より先に授業が進んでるD組の辰に借りたノートを写しただけだったけどでもヤ
 カン頭はめちゃめちゃ驚いてグウの音も出なかった。
 2限の化学の教室移動の途中で兎丸と司馬に会ってあいかわらず司馬は兎丸の保護者みてーに後ろにくっ
 ついてて兎丸はテメーに勢いよく抱きついてこようとしたから意趣返しで避けたら隣にいた沢松に激突し
 て危うく沢松は3階の窓から落ちそうになって爆笑したら今度は自分が兎丸に不意打ちで抱きついてきた
 から逃げられなくってすっ転んで腰を強打して部活あるのにどうしてくれるんだって怒っても兎丸は全然
 気にしてねーし司馬は困った顔して笑ってるだけだったからいい加減にしろって兎丸を追っかけてたら授
 業に遅刻して廊下に立たされた。
 3限の体育は………。」



「ちょ、ちょ、タンマ、犬!もういい、もういいから、分かった!」




息もほとんど継がねーで一気に喋る俺を、焦ったような顔して猿が止めた。







俺を見くびるなよ、バカ猿。
さっきからテメーが喋ったこと、ホントにちゃんと一言一句漏らさずに、俺は聞いてるんだから。








頷いたり返事したりしねーのは、聞いてねーからじゃなくて。
勿論、テメーの饒舌に呆れてるから、なんてことでもねーし。

ただ、気持ちよく喋り続けてるテメーの邪魔をしたくねーのと、
心地よいシャワーみてーなテメーの言葉の雨を浴び続けていたいから。

ちゃんと、ちゃんと聞いてる。
漏らさずにずっと、聞いてる。
テメーの言葉、声、全部全部、聞いてるから。








「とりあえず、ちゃんと聞いてるから、安心してテメーは喋り続ければいーんだよ。」
 そんなことを言いながら、ポンと頭に手を置いてやると、
猿は俺の方をまっすぐ見て、ついぞ見せないくらい嬉しそうに笑った。
思わず、俺が見惚れちまうくらいに、綺麗に。

けど、すぐに自分がどんな表情晒してるのか気づいたらしく、
途端にさっきまでの不機嫌そうな面に戻って、で唇を尖らせた。
「べ、別に俺はテメーに俺の話を聞いてて欲しいとか、んなこと思ってねーからな!
 自惚れるんじゃねーぞ!!」
って、いまさら誤魔化そうったって、無駄に決まってるじゃねーか。

このおバカな猿のそんな意地っ張りなとこまで可愛くてたまんなくて、
俺はちょっとコイツをからかってやりたくなって、そっと耳元に囁いた。
「なあ、ちゃんと聞いてたこと証明したんだ。
 とりあえず、ご褒美にキスくらいしろ。」
「…………。」
さっきとは違った、困ったような上目遣い。
でも、ちょっとだけ迷う仕草をしてから、猿は。





「『犬頭でよく記憶してましたで賞』、な!」





そんな憎まれ口を叩いてから、背伸びをして、ちゃんと唇にご褒美のキスをくれた。


















とにかくべらべら喋りまくる、テメーのマシンガントークは、
迷惑に感じることが、全くねーってわけじゃねえけど。

でも、大好きなテメーが一生懸命喋る言葉は、声は、俺にとってはすっげー心地いいし。
で、テメーが俺に話を聞いてて欲しいから、こんなに喋り続けてるってのも分かったし。

それはつまり、俺のこと、好きだからだろ?
止まんねーマシンガントークは、テメーなりの愛情表現だろ?

だから、俺はこれからも、「マシンガントーカー」なテメーに、
ずっとずっと、付き合っていってやるよ。


とりあえず、その代わり、時々はさっきみてーな甘いご褒美のキス、くれよな?










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≪Comments≫

5万打お礼フリーSS、最初のSSは犬猿で甘めのSSでした。
多分、タイトル見て「あー」と思った方が多いかと思いますが、
某バンドのかの有名な犬猿ソングをイメージして書いた曲です。
この曲、皆様がおっしゃっているように、本当に犬猿ソングの王道ですよね!
私も大好きで、よくエンドレスリピートしています。
それにしても、うちの犬飼キュンはあまり頭がよろしくないはずなのに、
猿がらみとなると、尋常ではない記憶力を発揮するようです。
ちなみに披露されることはありませんでしたが、
本当は彼、猿が話したことすべて、完璧にリピートすることができたのです(笑)
まあ、結論はなんだかんだと言っても、二人はラブラブだよvということで!
(そんなまとめ方でいいんだろうか…)








 

 

 

尊敬する犬猿書き様、大崎要様のサイトからフリーだったので頂いて参りましたv

5万ヒット記念、だそうです。
凄いなあ、そして記念にフリーSSだなんて気の利いたことをしてしまう大人な方…
ハッキリキッパリ憧れです。

そして表題曲、私も大好きです。


UPDATE/2004.8.24

 

 

 

 

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