鬱陶しい長雨も上がった。

さあ、待ちに待った季節がやって来る。






熱狂サマー
















 気象庁からの正式な梅雨明け宣言を待たずして、高校球児たちの夏は始まる。
昨年の優勝校のキャプテンによる、選手宣誓。
この時ばかりは、流石に独特な喋り口を改めた、
十二支高校野球部キャプテン、虎鉄大河による力強い宣誓に、場内はわあっと沸きあがった。
心地よい歓声。
去年のあの熱狂が、舞い戻ってきたかのような。
ニッ、と零れる笑みを隠そうともせず、きゅっと拳を握る猿野。
待ちに待っていた夏が、あの興奮の日々が、やっと到来した。
高校球児が、これに興奮しないで、何に興奮しろと言うのだ。


 ふと、何気なく、(いや、実際は少しも何気なくないのだけれど、)
視線を遣ったその先、自分と同じようにニタリと笑う、見慣れた顔。
朱を施した目元が、楽しそうに歪む。

御柳芭唐。

コイビト、なんて大層なシロモノではないけれど、
あえて定義づけるなら、その言葉が一番近いだろう存在。
一緒に遊びに行く回数は、現在、鬼ダチを抑えて堂々のトップ。

 けれど、これから暫くは、残念ながら会うこともままならない。
だって、この二週間だけは、コイビトだろうとなんだろうと、
別のチームならば、蹴落とさなければならない敵なのだから。
(蹴落としても蹴落とされても、恨みっこナシの間柄だけれども。)
そんな状況の下、薄い唇が声無く刻む言葉は。



『俺と暫く会えなくって、寂しいっしょ?』



憎らしい戯言は、悔しいけれど、事実だったりするものだから。
こっちも声を出さずに、『バーカ』と返してやる。
(むしろ、それ以外、言う言葉が見つからない。否定は出来ないし、肯定するのも癪だし。)
思い切り、眉間に皺を寄せて、睨みつけながらの科白にも係わらず、
余計に嬉しそうにニヤニヤ笑いを浮かべたりするのだから、本当に性質が悪い。

 こんな馬鹿げたじゃれあいを、去年の開会式でしていたのなら、
きっと今頃御柳の頭には、厳格なキャプテンの拳骨が落とされていたのだろうけれど。
今年、新しくその役を担ったのは、何分温和で優しい久芒白春。
ちらっと諌めるように視線を送るだけだから、全く以って効果なし。
最終的には、同学年の墨蓮に軽く頭を叩かれて、なんとか一応ゲームセット。
猿野サイドは猿野サイドで、ちょうど後ろに立っていた犬飼からの蹴りが入って、
結局は、両者痛み分けで終わった。
(犬飼からの蹴りには、多分に嫉妬とか焼きもちがこもっていたのだが、
 残念、猿野自身は全く気付いてもいなかった。)







 やがて、滞りなく開会式も終わり、バラバラとチームごとに散っていく。
本当は、華武のところに顔を出したかった猿野だけれど、
(なんだかんだ言っても、やっぱりコイビトらしきヒトには会いたいわけで)
十二支と華武は、如何せん宿命的ともいえるようなライバル校。
流石に状況が状況だから、諦めざるを得なくて。
その代わり。



「よっ、ミハっ!」
「あ、ぅ、猿野、くん…!」



隙を見て駆けつけた先には、西浦ナインの姿。



いきなり後ろから抱き付いてきた猿野に、
三橋は何が起こったのか分からず、一瞬、パニック状態に陥ったが、
すぐに、相手の正体が分かると、不器用な、けれどほんわかした笑みを浮かべた。
「へへーっ、会いたかったぜ〜!」
「う、んっ。オレ…もっ!」
コクコク、と頷く自分よりも10センチ近く身長の低い三橋が、なんだか可愛くて、
がしがしと頭を撫でてやると、まるで子猫のように首をすくめる。
兎丸とは全く違うタイプの弟分に、ついつい、過剰に構いたくなってしまう。

と。


「わーっ、猿野だあ!」
パーン、と猿野の背中を叩いて笑うのは、田島。
「よぉ。」
愛想無く、軽く頭を下げつつ、さりげに三橋を奪っていくのは、阿部。


そして。




「あーら、猿野クン、堂々とスパイ行為なんて、勇気があるじゃない!
 もしかして、頭、握りつぶしてもらいたい?」



パキパキと手を鳴らして笑んでいるのは、西浦の女傑、モモカンこと百枝。



一瞬、猿野も三橋も田島も阿部も、ヒィと喉を鳴らして凍りついたのだけれど。
(だって、そのまま本当に頭を握りつぶされそうで。)
対するモモカンは、アハハハと豪快に笑って、猿野の背中をパンと叩いた。

「冗談だって、冗談!
 それより、今年はウチと十二支と決勝戦が出来るように、
 お互いに頑張っていきましょ!」

ぐるり、と西浦ナインを見回す猿野。
以前に見たときよりも、なんだか皆、一回り大きくなったように見えて。
去年はトーナメントの関係で直接試合をする機会は無かったけれど。
今年、もし、対戦したら、彼らと勝負したら。


考えただけで、楽しくてゾクゾクする。


「はいっ!気合入れていきますっ!」


力強く頷いて、西浦ナインと握手をして。
そして、自分を呼んでいる、十二支ナインの輪の中へと戻って行く。
ドキドキが、ワクワクが、止まらなくて、こらえ切れなくて。

「うっしゃあ、やるぜえ〜っ!」

咆哮を上げて、握り締めた拳を、青い青い空へと突き上げた。















気温の上昇に伴って、高校球児たちのボルテージもヒートアップ。
もっともっと、暑く、熱くなればいい。
眩暈がするほど、暑く熱く。

さあ、待ちに待った夏の到来だ!
















 

 

ど、どどどど。
どうすればいいですかこの素敵小説!!!

芭猿でミス振りで、ああもうとにかく素敵過ぎて言葉が足りません!!
こちらの小説、要さんが私の誕生日に書いてくださったんです〜!
いえー!!!!!

どうしようもう、どうしたらいいんだろう。
とりあえず西には足を向けて寝ないことにします。
もうもう、本当に幸せです。
要さんに、ミスフルに出会えてよかった。



UPDATE/2005.07.19

 

 

 

 

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